塩谷歯科医院

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歯みがき粉の“研磨剤”で歯がすり減る?知っておきたい「NCCL(歯の根元の欠け)」の話

目次

先に結論(忙しい方向け)

はじめに ── なぜ"歯みがき粉"がテーマなのか

毎日使う歯みがき粉。パッケージには「ホワイトニング」「ステイン除去」「歯周病予防」などさまざまなキャッチコピーが並んでいます。ドラッグストアで何気なく選んでいる方がほとんどだと思いますが、実はその中身(研磨剤)の違いが、長い目で見ると歯に大きな影響を与える可能性があることをご存知でしょうか。

今回ご紹介する論文(Nassar & Hara, 2021)は、歯みがき粉の研磨剤の強さと、酸性の食品・飲料が、歯の根元にどれだけダメージを与えるかを実験的に調べたものです。

専門用語を使わずに、「患者さんが日常で気をつけられること」に焦点を当ててご紹介します。

そもそも「NCCL(歯の根元の欠け)」とは?

NCCLって何の略?

NCCLは Non-Carious Cervical Lesion(非う蝕性頸部病変) の略称です。簡単に言えば、虫歯ではないのに、歯の根元(頸部)が削れたり欠けたりする病変のことです。

どんな見た目になるの?

歯の根元に、V字型やくさび型の溝ができるのが典型的です。軽度の場合は目立ちませんが、進行すると以下のような見た目・症状になります。

  • 初期:歯の根元がわずかに凹んでいる程度。自覚症状がないことも多い
  • 中等度:根元にはっきりとした溝ができ、冷たいものがしみ始める(知覚過敏)
  • 重度:深い溝になり、歯の神経(歯髄)に近づく。痛みが出ることもあり、詰め物による修復が必要になる

なぜ起きるの? ── 3つの原因

NCCLの発生には、主に3つの要因が関わると考えられています。

  1. 摩耗(アブレーション) ── 歯ブラシや研磨剤による物理的な削れ
  2. 酸蝕(エロージョン) ── 酸性の食品・飲料・胃酸などによる化学的な溶解
  3. 咬合ストレス(アブフラクション) ── 噛み合わせの力が歯の根元に集中してかかる

これらが単独で起こることもあれば、複数が同時に進行することもあります。特に「研磨剤による摩耗」と「酸による溶解」が組み合わさると、歯の表面がより傷つきやすくなると言われてきました。

実は増えている? NCCLが注目される背景

近年、歯科医療の進歩や予防意識の高まりにより、歯を長く残せる人が増えています。これ自体はとても良いことですが、歯が長く口の中にある分、長年の摩耗や酸蝕のダメージが蓄積するリスクも高まります。

つまり、歯を残せる時代だからこそ、NCCLへの予防意識が重要になっているのです。

この研究では何を調べたの?

研究の概要

この研究(Nassar & Hara, 2021, Journal of Oral Science)では、抜歯した上顎小臼歯96本を使い、実験装置でブラッシングを繰り返して歯の根元がどれだけ失われるか(体積損失:VL)を測定しました。

実験デザイン ── 2つの要因 × 3段階

要因条件詳細
要因1:研磨性低・中・高の3段階RDA(相対象牙質摩耗値)=約69 / 147 / 208
要因2:酸性刺激あり・なしの2条件0.3%クエン酸(pH 2.48)で5分間浸漬

合計6グループ(3段階 × 2条件)に分けて比較しています。

ブラッシング回数の意味

実験では、ブラッシング回数を 5,000 → 15,000 → 35,000 → 65,000回 と段階的に増やしています。これは日常のブラッシングに換算すると、おおよそ以下のようになります。

ブラッシング回数換算(おおよそ)
5,000回1年分の歯みがき
15,000回3年
35,000回7年
65,000回13年

つまり、この実験は1年〜13年にわたるブラッシングの影響を、短期間でシミュレーションしたものと考えることができます。

測定方法

歯の表面を光学式プロフィロメーター(表面形状測定器)でスキャンし、ブラッシング前と後の3D画像を比較。どれだけ歯の体積が減ったか(VL:体積損失)を数値として算出しています。目視ではなく数値で比較しているため、客観性が高い測定です。

結果 ── 何が分かったのか

ポイント① 研磨性が高いほど、すり減りは大きい

もっとも顕著な結果がこれです。

  • 高研磨性グループは、低・中研磨性グループに比べて明らかに大きな体積損失を示しました(P < 0.001)
  • この差はブラッシング開始からわずか 5,000回(≒1年)の段階で、すでに有意差が出ています

高研磨性の歯みがき粉を使い続けると、たった1年でも歯の根元に影響が出始めるということです。

ポイント② 時間とともにダメージは加速する

すべてのグループで、ブラッシング回数が増えるほど体積損失も増加しました。

  • 高研磨性グループ:15,000回(≒3年)で有意な体積損失が確認
  • 低・中研磨性グループ:35,000回(≒7年)まで有意な体積損失にならず

ここから言えるのは、研磨性の低い歯みがき粉であれば、7年程度の使用でも大きなダメージにはなりにくいということです。逆に研磨性が高いと、3年程度で目に見える影響が出始めます。

ポイント③ 低研磨性と中研磨性の差は7年を超えてから

低研磨性と中研磨性の差は、35,000回(≒7年)を超えた段階ではっきりしてきました。つまり、中研磨性でも長期間使えば影響は出ますが、高研磨性ほど急激ではありません。

ポイント④ 酸性刺激(クエン酸)の影響は"有意ではない"

意外かもしれませんが、今回の実験条件ではクエン酸による酸性刺激は、体積損失に対して統計的に有意な影響を与えませんでした(P = 0.184)。

⚠️ただし注意:これは「酸っぱい飲み物が安全」という意味ではありません。今回の実験条件(2,500回ごとに5分間のクエン酸浸漬)では影響が検出されなかっただけで、もっと頻繁に・長時間の酸性刺激があれば結果が変わる可能性が論文でも指摘されています。

ポイント⑤ 病変の形に違いが出た

数値だけでなく、削れた歯の「形」にも違いが見られました。

  • 低研磨性:比較的なだらかで平坦な病変
  • 中研磨性:カップ型(お椀状)の病変
  • 高研磨性:くさび型(V字型)の深い病変。一部は歯髄(神経)に到達

くさび型の深い病変は、臨床的にも修復が難しく、知覚過敏や歯髄の問題につながりやすいタイプです。

患者さんの日常に置き換えると?

研究結果を日常生活に落とし込んで、気をつけるべきポイントを整理します。

1) 歯みがき粉の「研磨性」を意識する

歯みがき粉の研磨性は、RDA(Relative Dentin Abrasivity:相対象牙質摩耗値) という数値で表されます。

RDA値の目安分類代表的な製品カテゴリ
0〜70低研磨性知覚過敏用・子ども用歯みがき粉
70〜150中研磨性一般的なフッ素配合歯みがき粉
150〜250高研磨性ホワイトニング用・ステイン除去タイプ

日本の市販品ではRDA値が明記されていないものも多いのですが、「ホワイトニング」「ステイン除去」を全面に打ち出しているものは研磨性が高い傾向にあります。

おすすめのアプローチ

  • 普段使いは 低〜中研磨性 のものにする
  • ホワイトニング用は週1〜2回の限定使用にとどめる
  • 歯ぐきが下がっている人、知覚過敏がある人は、低研磨性のものを選ぶ

2) 磨き方を見直す ── 力より「テクニック」

この研究は、歯みがき粉の研磨性が主因であることを示していますが、実際の臨床ではそれに加えて磨き方も大きな要因です。

やめたい磨き方

  • ❌ ゴシゴシと力を入れて横に動かす
  • ❌ 硬い歯ブラシでガシガシ磨く
  • ❌ 歯ぐきの境目を避けて磨く(汚れが残り、逆に歯ぐきが下がる)

おすすめの磨き方

  • ✅ 歯ブラシは 「鉛筆持ち(ペングリップ)」 で持つ → 自然と力が入りにくくなる
  • 小刻みに(1〜2歯幅ずつ)振動させるように動かす
  • やわらかめの歯ブラシを選ぶ ── 論文中でも軟毛ブラシが使用されています
  • ✅ 力の目安は「歯ブラシの毛先が広がらない程度

3) 歯ぐきが下がっている人は"特別扱い"が必要

歯の表面はエナメル質という非常に硬い組織で覆われていますが、歯ぐきが下がって露出した根の部分は象牙質です。象牙質はエナメル質よりもやわらかく、摩耗しやすい特徴があります。

この研究でも、実験対象は歯の根元(象牙質が露出した部分)です。つまり、歯ぐきが下がって根が見えている方にとって、歯みがき粉の研磨性はより直接的に影響します。

こんな方は要注意

  • 歯ぐきが下がってきたと感じる
  • 歯の根元が冷たいものでしみる
  • 歯の根元に段差や溝がある
  • 加齢とともに歯が長く見えるようになった

こうした場合は、歯科医院で歯みがき粉の種類やブラッシング方法を相談することをおすすめします。

4) 「酸っぱい飲み物で歯が溶ける」は本当? ── この論文での結果

今回の研究では、クエン酸による酸性刺激を加えたグループと加えなかったグループを比較しましたが、体積損失に統計的な有意差は認められませんでした(P = 0.184)。

つまり、この実験モデルにおいては、酸性刺激よりも歯みがき粉の研磨性のほうが圧倒的に大きな影響因子だったということです。

論文の著者も、今回の酸性刺激の条件(2,500ストロークごとに5分間のクエン酸浸漬)では影響を検出するには不十分だった可能性に言及しており、「より頻繁・長時間の酸性刺激を用いた追加研究が必要」と述べています。

いずれにしても、この論文から言えるもっとも重要なメッセージは「研磨性の管理」です。酸性飲食物の影響については、今後の研究を待つ必要があります。

よくある質問(Q&A)

Q1. 電動歯ブラシは使わない方がいいですか?

使い方次第です。電動歯ブラシ自体が悪いわけではありません。大事なのは以下の2点です。

  • 強く押し当てない ── 電動ブラシは自動で振動するので、手で力を加える必要はありません
  • 高研磨性の歯みがき粉と組み合わせない ── 電動ブラシの振動 × 高研磨性は、すり減りを加速させる可能性があります

Q2. 研磨剤なしの歯みがき粉にすれば安全?

研磨剤がまったくないと、歯の表面の汚れや着色を十分に落とせない場合があります。大切なのは「研磨性をゼロにする」のではなく「適切なレベルに調整する」ことです。

Q3. すでに削れてしまった歯は元に戻りますか?

残念ながら、削れた歯質そのものは自然には再生しません。ただし、以下のような対応が可能です。

  • フッ素の活用:表面の再石灰化を促し、これ以上の進行を防ぐ
  • 知覚過敏用の歯みがき粉やコーティング材:しみる症状を軽減
  • コンポジットレジン修復:溝が深い場合は、歯科用の詰め物で形を整える
  • ブラッシング指導:磨き方を修正して、これ以上削れないようにする

大事なのは「今からでも進行を止める」ことです。

Q4. 子どもにも関係ありますか?

子どもの場合、永久歯が生え始めた段階では歯質がまだ成熟しきっていないため、研磨性の高い歯みがき粉は避けた方がよいでしょう。子ども用のフッ素配合歯みがき粉は、一般に研磨性が低く設定されています。

Q5. 歯みがき粉を使わなくてもいい?

歯みがき粉なしでも、正しいブラッシング技術でプラーク(歯垢)の除去はある程度可能です。ただし、フッ素による虫歯予防効果や、歯みがき粉に含まれる薬用成分の恩恵を受けられなくなります。完全になくすよりも、低研磨性でフッ素配合のものを使うのがバランスのよい選択です。

まとめ ── 今日からできること

💡

歯みがきは毎日のことだからこそ、小さな見直しの積み重ねが、将来の歯の健康を大きく左右します。気になることがあれば、次の定期検診でお気軽にご相談ください。

参考文献

Nassar HM, Hara AT. Effect of dentifrice slurry abrasivity and erosive challenge on simulated non-carious cervical lesions development in vitro. Journal of Oral Science, Vol. 63, No. 2, 191-194, 2021.

ご予約・ご相談はお気軽にどうぞ

加西市 歯医者 塩谷歯科医院  電話番号 0790-48-3690

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