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歯の破折
歯が折れる、割れるというイメージがある「歯の破折」。実は多くの症例で自覚症状がないことが特徴です。症状がなく進行していく、痛みのもととなるのが歯の破折です。
歯の破折とは
歯の破折とは、歯の表面あるいは内部に生じた亀裂のことです。エナメル質や象牙質に入り込んだ細菌が増殖し、痛みを引き起こすことがあります。重度の場合は歯が完全にわれてしまうこともあります。
歯の破折には、表面の微細なひび割れから、歯牙を分断する大きな亀裂まで様々な程度があります。症状の程度に合わせて、一般的に5つに分類されます。
- Craze lines:エナメル質の表面ひび割れ(自覚症状なし)
- Fractured cusps: 咬頭破折(軽度の痛み)
- A cracked tooth: 歯冠破折(咬合時痛)
- A split tooth: 歯根の完全な破折(食事中痛)
- Vertical root fractures: 根面からの亀裂(高度な痛み)
Craze linesは目に見える破折であり、エナメル質内に限局します。長い垂直クレーズラインは通常、前歯に発生する。
Fractured cuspsは、歯の歯冠から始まり、象牙質に広がり、歯頸部で破折が終わります。これは、修復された歯に見られ、被覆されていない咬頭のエナメル質に起こります。
A cracked toothは、歯が完全に分断されることなく、歯の咬合面から頂端に伸びるひび割れを示す。ひび割れは、一般的に歯の中心の近遠心に位置します。
A split toothは、歯が完全に割れた状態です。亀裂は通常、歯の中心に位置します。
Vertical root fracturesは、歯冠に破折が見られず、歯根から始まる破折です。破折は、根全体または根の一部のみを含むことがある。
原因は加齢によってい歯のがもろくなってしまうのが大きいでしょう。
歯の破折の原因
そのほか、歯ぎしりなどの習慣、過剰な力が歯にかかることで発生するケースもあります。また治療歴を有する歯や詰め物のある歯もリスクが高いといわれています。 歯の破折の原因には、加齢に伴う歯の物性変化のほか、次のような外的要因が関与しています。
- 歯ぎしりや噛みしめなどの習慣
- 過剰な力による歯への外傷
- 治療歴のある詰め物歯
- 口腔乾燥
- 頭頸部放射線治療
いずれも、長年の小さな力が蓄積することで歯の脆弱化が進行し、亀裂を生じると考えられています。
歯が破折した場合の処置
自覚症状が乏しいことが多い歯の破折ですが、冷水での刺激や噛み合わせ時の痛みが出現する場合があります。確定診断にはエックス線検査や新しい画像診断が用いられます。 歯の破折は程度に応じて、様々な治療法があります。一時的に痛みを和らげる処置から、抜髄処置や修復に至るまで、段階的に対応していきます。
応急対応
痛みを緩和し症状の進行を抑えるため、まずは咬合調整から始めます。咬合面の調整により、破折した歯への過剰な力が軽減します。次いで、応急的にクラウンを被せて保護したり、固定を行います。
直接修復
破折の範囲が歯冠部に留まる場合に適用できます。レジンなどの充填材で補修する保存的治療です。技術的な難易度は低いものの、咬合力による再破折のリスクがあることに注意が必要です。
間接修復
クラウンやインレー、オンレーなどの間接修復により修復します。 歯の再破折を防ぐために咬頭を含む咬合面を覆うことが多くなります。
根管治療
破折が歯髄まで及んでいる場合は、神経や血管を含む歯髄を除去する抜髄処置が必要となります。また神経に細菌が感染してしまっている場合は感染根管治療が必要となります。 予防には定期検診と口腔内の清掃が大切です。30代以降は要注意です。無症状での進行を防ぐには、日頃の口腔ケアが不可欠と言えるでしょう。
(図の出典元:Hasan S., Singh K., Salati N. Cracked tooth syndrome: overview of literature. International Journal of Applied and Basic Medical Research . 2015;5(3):164–168)